東京高等裁判所 昭和37年(く)6号 決定 1962年2月05日
少年 K(昭一七・二・二八生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告理由の要点は、
(一)、犯行当時少年が勤務していた○○運輸株式会社における少年の労働は激しいもので、突然静岡県、長野県等に二日乃至四日も出張往復させられることもあつたので、その間の宿泊飲食費等に窮して犯行に出たと疑われる節があり、少年が以前交際していた新宿○○組の子分三名が少年に暴行を加えて負傷させ、少年の更生意欲を阻害した事実もあるので、少年の犯罪的傾向にすべてを帰せしめるのは当らない
(二)、少年の内妻○木○美は、現在姙娠三ヵ月で、申立人の家に同居しており、少年のため良い妻として少年が再び犯行を繰り返すことのないよう努力し、子供を育てる覚悟を示しているから、それによつて被告人が責任を感じ更生することが期待される。
(三)、申立人も、父として従来少年に対し頑固であつたことが本件の一因をなすものとして反省を加えている
(四)、少年自身も反省悔悟している
(五)、帰宅後の少年の職業についても、申立人は具体的に成案を得ている
の五つの理由を挙げて、少年に対しては在宅保護が相当で特別少年院に送致する必要はないと認められるから、原決定は著しく不当なものとして取消されるべきであるということを主張するにあるものと解される。
よつて、本件窃盗保護事件記録及び添付の少年調査記録を精査して按ずるに、少年の生活史及び非行歴は概略原決定摘示のとおりであつて、原決定の認定した犯罪事実は昭和三十六年十月二十五日夜勤務先であつた千代田区○○町××番地○○運輸株式会社察内において修理工○沢○夫所有の携帯ラジオ一個(時価五千円相当)を窃取したという一個の事実であるが、右の外にも同種の窃盗の犯行のあることは、少年の検察官に対する供述調書及び司法警察員の搜査報告書によつて認められるところであり、前記携帯ラジオを窃取した事情については、少年としては、右足を経我して働けなくて金に困つたので友人に金を借りるつもりで察に行つた際に敢行したというのであるが窃取後直ちに内妻○木○美の住んでいたアパートに行つて一泊し、翌日金千円で入質して飲食費に使つたもので、前記搜査報告書によつて認められる十一月中の○○運輸株式会社への出勤日数が僅かに五日である事実、原決定摘示のとおり非行歴で、中等少年院を退院したのが同年七月二十八日で本件犯行はその後三ヵ月以内のことであること等を参酌すれば、右犯行に至つたのは、主として、矢張り少年の犯罪的傾向が高度であることに基因するものと認めるのが相当である。
而して、ひるがえつて少年の生活環境を検討するに、申立人は、父として従前の自分の態度に至らない点のあつたことを反省し一層の努力をするというが、申立人が少年の指導監督について従前も決して非協力的でなかつたことは、前記各記録に徴して認められるところであつて、母が病気のため入院中であることは、これは又従前と同様で変化はないのであるから、右に関する限りは従前と比較して特別に改善された環境になつたものとは認められないし、専門保護司の保護観察に委ねるとしても、保護司に対する少年の従前の接触状況が極めて不良であつたことに徴ずれば、今直ちにこれに多大の期待を寄せることも無理であるといわざるを得ない。この点につき、申立人は、現在姙娠三ヵ月の内妻○木○美の人物及びその努力に期待すべきものがあることを強調し、本件窃盗保護事件に関連して東京少年鑑別所が提出した鑑別結果通知書には、「現在内妻が少年の家に同居し子供もできた模様で少年もかなり自覚を深めているので云々」との所見も記載されているのであるが、右のような事情をその儘に発展させることが、少年の更生に役立つことになるか或いは又反対に作用することになるかは、家庭の事情とも関連することで、軽々には断定を許さないものというべきであり、最近までの少年の犯罪的傾向の強いことに鑑みれば、この際は寧ろ隔離された環境において矯正教育を受けさせると共にその自覚性の発展成長を待つに如くはないと考えられる。
それ故、原決定が少年を特別少年院に送致すると定めたのは相当であり、これを目して著しく不当な処分ということはできない。
よつて本件抗告は理由がないものとして棄却すべきものとし、少年法第三十三条第一項に則り、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 上野敏)